『ルポ 貧困大国アメリカ』を読んで考えたこと
昨年のアメリカで起きたBLM -Black Lives Matter – や、ANTIFAが引き起こした暴動、米大統領選のグダグダを見て、アメリカの実態、現在見えるような社会状況にどうしてなっているのか興味を覚えて、ふと、以前に買っておいた2008年初版で堤未果さん著のベストセラー『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)を取り出して読み始めました。新書で普通のページ数なので、すぐ読み終えられそうです。岩波書店の雑誌、『世界』に寄稿したりした記事を元に新書化したようで、堤さんは基本的にはリベラルな思想の持主と思われます。
第1章 貧困が生み出す肥満国民
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
第4章 出口をふさがれる若者たち
第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
プロローグとエピローグで挟まれて、こんな内容になっているのですが、とりあえず3章まで読んでこれを書いています。
第一章が貧困、第2章が防災、第3章が医療をテーマに扱っていて、それぞれのテーマでアメリカ国民の窮状をリポートしているのですが、3つに共通なのは、民営化、予算削減です。堤さんがリベラルなので、下流の国民に焦点をあてていて、ここで語られていることがどの程度のものなのかは、10年以上前の外国のことで、私が正確にしる由もないですが、アメリカのどこかしらで起きていた事象ということは間違いないと思います。
アメリカが移民大国で、その移民たちが貧困層を形成していること、2005年8月に起きたハリケーン・カトリーナにより大災害となったニューオーリンズが全米で屈指の貧しい州、ルイジアナの都市であり、予算削減で防災事業を民営化したことで災害を大きくしたこと、日本のように皆保険でないアメリカでの医療制度は、私企業の保険会社で支えられていて、経営の観点が入るので、コスト高、支払拒否などがあり、中流層までを、いきなり貧困層にしてしまうこと、などの状況が説明されています。これらの原因となるのは、共和党ブッシュJr時代の民営化、予算削減政策と論じています。この論は全然、違和感がありません。日本で報道されていたことだけでも、これらの状況は裏打ちされるのです。ブッシュJr時代は日本は小泉政権で、日本でもアメリカの影響が強く、民営化は推し進められていたので、アメリカで行われた政策が日本にも押しつけられていたのだと合点がいきます。
これを読んでいて思ったのは、今現在言われている日本の問題は、実は、別の視点があるのではということでした。日本はこの20年間、GDPなどの数字上は、まったく成長しておらず、世界でも例外的な国となっています。アメリカについて言えば、名目成長率で2倍になっているのです。この数字から見れば、日本の地盤沈下は目も当てられないのですが、その割には、国民は平然と現実を甘受しているようにしか見えません。その理由みたいなものが頭に浮かびました。
- アメリカの格差社会の拡大は、企業の優遇が激しく、CEOや経営者が何十億、億単位の報酬を得ているから。彼らが大量の消費を行ってGDPに寄与している。そんなGDPなどマヤカシである。
- アメリカは特に食生活がひどく、マックなどのジャンキーな食事が多い。そのために健康も害しやすいが、日本は食生活がまだ健全で、病気になりにくい(これは科学的な証拠は示せない、個人的な推論です)。ちなみに本によると、アメリカの貧困層は食費も満足にないので、必然的に高カロリーのジャンキーな食事になってしまい、肥満化が進み、医療費が増すという悪循環ということです。
- 国民の分断も少ない状態なので、社会での生活は比較的ストレスが少ない。
- そのうえ、皆保険なので、医療費で財産を失うようなことは極めて少ない。本によると、例えば、盲腸手術の1日の入院で100万円以上、保険がないと自費となるとのことです。
- 移民がまだ少なく、貧困層割合はまだ少ない。
- 20年間成長しない間はデフレ状態なので物価がかえって下がり、給与も増えない代わりに、100円ショップなどで日用品も調達できるので、生活費的には、相殺されているところもある。
- ただ、100円ショップにしても、アジア諸国での生産によって成り立っているところがあり、この部分はメリット・デメリットの評価は難しい。
- 物価が上がらないので、年金生活者は、恩恵を受ける。年金生活者は、ゆくゆくは遺産として、子供世代に譲るので、子供世代は給与不足を相殺できる。
- 日本が生産性が低いとか競争力が弱いのは、ある意味、中国における、奴隷的な労働力による価格競争力に勝てないからであり、アメリカも同様に移民が奴隷的に安い賃金で雇用されているためで、奴隷的労働を国内に持たないことは逆に誇りに思ってよい。
などなど。
これはあくまで、最近までの日本の状況で、かなり似た状況になって来ているので、油断ができないのは言うまでもありません(根本的な医療制度まではまだ手が付けられていませんが)。移民政策や不法移民の増加、公共サービス(水道、電気)の民営化、健康保険の外国人による不正利用、日本食の減少、など、じわじわとだったり、急激にだったりではありますが、現実に起こっていて、いつ、社会の中で崩壊現象が起こっても不思議ではありません。
日本は外国のやりかたを丸々お手本とせず、日本古来のやりかた、制度の日本仕様での適用を続けて、国民の分断のない、ストレスの少ない社会を守らないといけないと強く思います。
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